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落札した競売物件に占有者が!引き渡し命令と強制執行の流れを解説
落札した競売物件に占有者がいる時、投資家の皆さんはどうされますか?
まず「立ち退き交渉」をして、応じない場合は「引き渡し命令」を下し、それでも退去しなければ、最終手段の「強制執行」に踏み切るのがセオリーですが、もしこれ以外の方法で無理に強硬手段に出てしまうと、後々トラブルに発展しかねません。
そこで今回は、「引き渡し命令」と「強制執行」の流れをメインに解説します。この記事を読めば、競売物件を買う際の注意点もわかるようになります。競売入札を検討している方は、ぜひご覧ください。
競売物件に占有者がいた時の対処法
競売物件に占有者がいた時の対処法は、「立ち退き交渉」「引き渡し命令」「強制執行」の3つがあります。なかでも、最初に行う「立ち退き交渉」は、次の2つのケースで対応が変わります。
- 立ち退き交渉に応じる場合
- 立ち退き交渉に応じない場合
以下では、詳しく解説します。
立ち退き交渉に応じる場合
落札した競売物件に占有者がいる時、買受人が最初にすべきことは「立ち退き交渉」です。その際、占有者にはもうすでに所有権がないことや、不法占拠にあたることの2点をまずは伝える必要があります。
次に、交渉の仕方にも注意しなければなりません。「退去してくれたら立ち退き料や引っ越し代を負担する」という言い方よりも、「〇月〇日までに立ち退かなければ、損害金を請求します」という言い方のほうが望ましいと言えるでしょう。
なぜなら、立ち退き料や引っ越し代の支払いに対して最初から前向きな姿勢を見せると、占有者から高額な立ち退き料を求められる可能性があるためです。
このように「立ち退き交渉」では、占有者に対して毅然とした態度で対応することが求められます。
立ち退き交渉に応じない場合
占有者が立ち退き交渉に応じない場合、通常「引き渡し命令」か「強制執行」になりますが、そのまま賃貸借契約を結ぶのも1つの手です。
実際、以下のようなケースでは占有者との賃貸借契約が成立する可能性があります。
- 生活保護や障害年金といった自治体からの家賃補助が出るケース
- 賃貸借契約を結べるほどの経済力が親族にあるケース
しかし、実際には多くのケースで占有者の大半に家賃の支払い能力がないので、占有者と賃貸借契約を結ぶ場合は注意が必要です。債務の無い親族と契約したり、保証会社に加入したりすると良いでしょう。
もし占有者と賃貸借契約が結べず、「立ち退き交渉」も難しい時は、「引き渡し命令」か「強制執行」を実施するしかありません。
引き渡し命令と強制執行の流れ
占有者が「立ち退き交渉」に応じない時、買受人に残された選択肢は「引き渡し命令」「強制執行」のどちらかです。その際、いきなり「強制執行」をするのではなく、まずは「引き渡し命令」の申立てをしましょう。
「引き渡し命令」であれば「強制執行」のように裁判がないため時間や手間がかかりません。
出典)東京地方裁判所 引渡命令の申立てから強制執行の申立てまでの手続の流れ
「引き渡し命令」や「強制執行」を実施する時は、次の5つの手順を踏んでください。
- 裁判所への申し立て
- 不動産引き渡し命令
- 明け渡し執行の申し立て
- 明け渡しの催告
- 明け渡しの強制執行
- 不動産引渡命令申立書
- 申し立て手数料 収入印紙500円×相手方の人数分
- 予納郵便切手 1,204円×相手方の人数分+94円×申立人の人数
- 資格証明書 申立人あるいは相手方が法人の場合は商業登記簿謄本が必要
- すでに審尋を受けているケース
- 買受人に対抗できるほどの権原を有しないケース
- 執行文付与申立書
- 引き渡し命令正本
- 送達証明書
- 受書
- 内覧できないため、物件情報を自分で確認する必要がある(購入前)
- 物件に不備があっても売主に責任追及できない(購入後)
- 私財や家財道具が置き去りにされることがある(購入後)
以下では詳しく解説します。
1. 裁判所への申し立て
立ち退き交渉をしてもなお占有者が立ち退かない場合、買受人は「裁判所への申し立て」をすれば、占有者に「引き渡し命令」を下せます。申し立てには下記の書類が必要です。
ただし、申立てができるのは、代金を納付してから6カ月以内(明け渡し猶予が認められる占有者の場合9カ月)までとなります。
また、債務者以外の者に対する引き渡し命令には、「審尋(しんじん)手続き」が必要です。審尋では当事者や利害関係者から占有し始めた時期や占有権限の有無について聞き出すことができますが、民事執行法83条3項に基づき、以下のようなケースでは省略されます。
出典)東京地方裁判所 不動産引き渡し命令の申し立てについて
2. 不動産引き渡し命令
引き渡し命令とは「物件を落札した買受人に不動産を引き渡すよう裁判所が占有者に対して下す命令のこと」です。発令は申し立てから約2~3日後にされます。
「引き渡し命令正本」が占有者と買受人の双方に送られるのも、同じく裁判所が発令できると判断したタイミングで、届くまでに約2日~2週間かかります。
このとき、占有者は「引き渡し命令正本」が送られた日の翌日から1週間以内、執行抗告と呼ばれる不服申立が可能です。
提起されたら強制執行できませんが、この1週間のあいだに特に何もなければ、「引き渡し命令が確定」します。
以上の手続きを済ませて初めて、占有者に対する不動産引き渡し命令を出せるようになります。
3. 明け渡し執行の申立て
明け渡し執行と言えば、明け渡し請求訴訟を提起のうえで、債務名義(明け渡しを認める確定判決)を得る本来の方法が一般的です。
しかし、裁判に時間や手間がかかってしまうため、引き渡し命令の延長線上で申し立てられる、もう1つの方法をおすすめします。
この方法で明け渡し執行の申し立てをする際は、あらかじめ執行文付与の申立てと送達証明の申請をして書類を取得する必要があります。
申請のタイミングの目安が引き渡し命令確定の1日半後であること、交付されるのがその約2週間~1か月後であることをご承知おきください。提出書類は下記の通りです。
ただし、引き渡し命令に基づく明け渡しの強制執行をする場合は、上記の書類プラス「現況調査報告書の写し」と執行予納金65,000円も必要です。
出典)東京地方裁判所 引渡命令に対する執行文付与,送達証明申請について
4. 明け渡しの催告
明け渡し執行の申立てと執行費用の納付を済ませた約2週間後、明け渡し催告がされます。
明け渡しの催告とは「強制執行が実施される日の1か月ほど前に、執行官が買受人とともに現況の確認と明け渡し催促のために物件に行き、強制執行する日を決めること」です。
その際、建物には公示書(催告書)と呼ばれる明け渡しを促す書類が貼り付けられます。
5. 明け渡しの強制執行
明け渡しの強制執行とは「占有されている不動産に執行官が強制的に立ち入り、占有を解除すること」を意味します。
催告から期限の1か月が経っても占有者が引き渡し命令に応じない(荷物をまとめて出ていくケースもある)場合、明け渡しの強制執行がされます。
引き渡し期限は1か月を経過した日に設定されますが、実際には催告の日に決めた期限の数日前であることが少なくありません。なお、費用は明け渡し料が数十万~数百万ほどかかります。
競売物件を買う際の注意点
競売物件を買う際に気がかりな点は、占有者の存在だけではありません。購入の前後で次の3点にも注意しましょう。
以下では、詳しく解説します。
内覧できないため、物件情報を自分で確認する必要がある
競売物件は一般販売されている物件と違って内覧できません。そのため、外観を視察しに行くなり、BIT(競売物件情報サイト)の3点セットを閲覧するなりして、自ら物件の情報を収集する必要があります。
裁判所の掲示板や新聞、情報誌を活用するのも1つの手です。
物件に不備があっても売主に責任追及できない
競売物件を落札すると、「壁に穴が開いていた!」なんてことがよくあります。
一般に売買されている物件の場合、売主に修繕費を出してもらったりできますが、競売物件の場合、売主には瑕疵(かし)担保責任がないので、買主が負担しなければなりません。
購入を検討されている方は、物件に不備があっても自己責任であることを承知の上で落札しましょう。
私財や家財道具が置き去りにされることがある
「立ち退き交渉」「引き渡し命令」「強制執行」のどれかを実施し、やっとの思いで占有者を退去させることに成功しても、物件内にはまだ他の問題が潜んでいる可能性があります。
それは債務者(占有者)の残置物(私財や家財道具)です。
残置物の処分方法は「債務者による持ち出し」「自分か業者による処分」「執行官による動産執行(強制執行)」の3パターンがあります。
このうちの「執行官による動産執行(強制執行)」では、債務者の許可なく勝手に処分することが可能です。
しかし、「債務者による持ち出し」あるいは「自分か業者による処分」では、債務者の許可が必要で勝手に処分できません。
まとめ
競売物件に占有者がいた時は、まず「立ち退き交渉」をして、応じない場合は「裁判所への申し立て」をしたうえで、「不動産引き渡し命令」をしましょう。
それでも立ち退かない場合は「明け渡し執行の申し立て」をして、催告から約1か月後に「明け渡しの強制執行」に踏み切るしかありません。
競売物件を購入する際、占有者の有無も気がかりかと思いますが、本記事でご紹介したその他の点にも注意が必要です。
ミライエでは競売入札の代行を承っております。競売物件の購入を検討されている方は、お気軽にご相談ください。