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競売物件の残置物を処分するには?強制執行にかかる費用の減額方法も解説
競売物件を落札すると、夜逃げした前の所有者(債務者)の私物や家財道具が、置き去りにされていることが少なくありません。処分しようにも勝手に動かせないため、多くの投資家が残置物撤去に関して頭を悩ませていることでしょう。そこで、今回は競売物件の残置物を処分する3つの方法について解説します。
この記事を読めば、処分方法の1つである強制執行の流れや費用、必要な書類も分かるようになります。記事の最後では明け渡し費用の減額方法も紹介していますので、競売入札を検討されている方はぜひご覧ください。
競売物件の残置物を処分する3つの方法
残置物(動産)とは、債務者の私財や家財道具のことです。建物のように動かせないもののことを「不動産」と言うのに対し、残置物は建物と違って動かせるので「動産」と呼ばれます。残置物を処分する方法は、大きく分けて以下の3つあります。
- 債務者に処分してもらう
- 自分で処分するか業者に任せる
- 裁判所の執行官に処分してもらう(強制執行)
以下では詳しく解説します。
1. 債務者に処分してもらう
買受人は残置物を勝手に処分できません。債務者の同意なしに動かすと違法だからです。動かした場合、債務者から高額な損害賠償を請求されることもあります。反対に、債務者からの同意を得られた場合は、債務者自身が費用を負担するので、買受人にとってメリットがあります。
以上の理由から、残置物を処理したい時は、債務者に同意を得て本人に処分してもらうのが理想的だと言えるでしょう。しかし、実現するのは簡単ではありません。なぜなら、ほとんどの債務者には金銭的な余裕がないためです。このことは債務者が住宅ローンを返済できず競売になっている事実を考えれば、容易に想像できるかと思います。
2. 自分で処分するか業者に任せる
債務者に処分してもらえない場合は、買受人が自分で処分します。しかし、この方法も債務者の同意なしに処分できないため、買受人は動産放棄書(債務者が自分の私物や家財道具の所有権を放棄することに対して同意する承諾書)にサインしてもらわなければなりません。それでも、債務者の中には、同意に応じてくれない方が一定数います。そういう時は承諾料をして理解を得ましょう。
記入事項は下記の通りです。
- 作成期日
- 権利放棄する旨
- 建物の表示(所在、家屋番号、種類、構造、床面積)
- 債務者の住所、氏名、捺印
- 買受人の住所、氏名、捺印
また、残置物を処分するにあたり、どうしても自分で処分することが難しい場合は、業者に代行を依頼するのも1つの手です。残置物撤去業者・不用品回収業者・引っ越し業者・不動産業者など業者の種類は多岐にわたります。設定価格や口コミ評価をもとに比較検討して自分に合った業者を選びましょう。
しかし、中には不当に高額な金額を請求してくる悪徳な業者もいるのでご注意ください。動産撤去業者の知り合いがいる方や紹介してもらえる方は、信頼できる業者に依頼することをおすすめします。
3. 裁判所の執行官に処分してもらう(強制執行)
債務者からの同意が得られない場合は、強制執行に踏み切るしかありません。強制執行とは「裁判所が債権者の申し立てに応じて、債務者の財産を差し押さえ、債権者に代わって債権を回収する手続きのこと」です。強制執行には「不動産執行」「動産執行」「債権執行」の3種類がありますが、今回のケースは残置物処分を目的としているため、「動産執行」に該当します。
動産執行をするには、まず買受人が裁判所の執行官に「強制執行申立書」提出しなければなりません。その書類が受理されると、後日差し押さえが実行されます。ただ、強制執行による残置物処分は、債務者の同意が必要ないものの、他の2つの方法と比べて圧倒的に多額の費用がかかってしまうのが難点といえます。
3つの方法を表でまとめると下記のようになります。
債務者が処分 | 自分または業者が処分 | 裁判所の執行官が処分 | |
---|---|---|---|
提出書類 | なし | 動産放棄書 | 強制執行申立書 |
債務者の同意 | 必要 | 必要 | 必要なし |
費用 | 債務者が負担 | 買受人が負担 数万~数十万円 |
買受人が負担 数十万~数百万円 |
強制執行の流れ
残置物(動産)の強制執行は、次の4つの手順で進められます。
- 執行官への申し立て
- 差し押さえ
- 競売
- 配当
以下では詳しく解説します。
1. 執行官への申し立て
執行官に強制執行してもらうには、まず買受人は対象の建物を管轄している地方裁判所の執行官に「強制執行申立書」を提出する必要があります。動産執行申立書は裁判所のWebページ(リンクは東京地方裁判所)で取得できますので、必要な方はダウンロードしてください。予納金を3~5万円支払い、動産執行に必要な書類を提出したら、執行官と動産執行(差し押さえ執行)の日時と待ち合わせ場所を取り決めましょう。
2. 差し押さえ
そして当日。定刻になると、執行官が建物に入り、債務者の私物・家財道具のなかでも換金価値のあるものを差し押さえます。実際に差し押さえられるのは下記のようなものです。
- 現金(66万円までは差し押さえられない)
- 高級な時計
- 宝石や貴金属
- 絵画や骨とう品
- ブランドバッグ
- 自動車(「自動車執行」と呼ばれる別の手続きをする必要がある)
執行官はトラックや車を使ってこれらを運び、倉庫に保管します。ただし、食料などの生活必需品や仕事上必要なパソコンなどは、差し押さえ禁止財産の制度に基づき、差し押さえられません。保管された私物・家財道具は、期間内に債務者が引き取りに来なければ、売却あるいは廃棄されます。
3. 競売
差し押さえられた残置物のうち、価値のあるもの(査定額5,000円~1万円以上)は、売却期日を迎えると売却されます。これを動産競売と言います。
4. 配当
競売にかけられた動産の売却代金は債権者へ支払われます(債権回収)。債権者が複数いる場合は平等に分配されます。
強制執行で残置物を処分する際に必要な書類
強制執行で残置物を処分する場合は、「強制執行申立書」の他にも提出しなければならない書類が4つあります。下記の通りです。
- 債務名義の正本
- 送達証明書
- 資格証明書
- 委任状
以下では詳しく解説します。
債務名義の正本
債務名義の正本とは「強制執行の申立てに必要な公的文書の写しのこと」です。ケースによって書類が異なります。
- 判決正本:裁判に敗訴した債務者が支払いに応じていないケース
- 和解調書:和解成立後もなお支払われていないケース
- 強制執行認諾文言付の公正証書:強制執行に認諾する旨の書類を債務者との間で作成しているケース
送達証明書
送達証明書とは「債務名義の正本が債務者へ送られていることを証明する文書のこと」です。裁判所か公証役場へ行けば発行してもらえます。ただし、発行場所は債務名義の正本が判決正本や和解調書であれば裁判所ですが、強制執行認諾文言付の公正証書の場合だけ公証役場ですのでご注意ください。
資格証明書
資格証明書とは「債務者と債権者の両方もしくは片方が法人の場合に必要な書類」です。法務局へ行けば発行してもらえます。登記事項証明書あるいは代表者事項証明書が代表例といえますが、どちらも個人の場合は必要ありません。
委任状
委任状は「強制執行の手続きを弁護士に依頼する際に必要な書類」です。委任状の書式は裁判所のWebサイト(リンクは東京地方裁判所)で確認できます。
強制執行で残置物を処分する際にかかる費用
強制執行で残置物を処分するとき、買主が負担しなければならない費用は次の通りです。
- 収入印紙
- 郵便切手
- 予納金
- 明け渡し費用
- 鍵開錠費
- 弁護士費用
以下では詳しく解説します。
収入印紙
動産執行をする際に必要な書類の印紙代に約4,000円かかります。
郵便切手
書類の郵送に必要な切手代に約3,000円かかります。
予納金
予納金とは執行官に払う依頼料のようなものです。約3~5万円かかります。
明け渡し費用
明け渡し費用とは実費のことです。1部屋(4m2)あたりの相場が約3~6万円の残置物撤去費も含まれています。つまり、100m2の建物の場合、約75~150万円支払わなければなりません。この残置物撤去費を買受人は債務者に請求する権利がありますが、実際には債務者の経済事情を考えて請求しないケースがほとんどです。
鍵開錠費
鍵開錠費は開錠業者に支払う謝礼金です。約1~3万円支払います。
弁護士費用
弁護士費用は弁護士に支払う依頼料です。相場は約10万円ですが、弁護士事務所によって異なります。
まとめると以下のようになります。
- 収入印紙(実費)…約4,000円
- 郵便切手…約3,000円
- 予納金…約3~5万円
- 明け渡し費用…約数十万~数百万円
- 鍵開錠費(謝礼金)…約1~3万円
- 弁護士費用(依頼料)…約10万円
明け渡し費用の減額方法
動産執行の明け渡し費用は、総費用の約90%を占めるほど多額なコストですが、建物の状況と進め方次第では1/2~2/3に抑えられます。
明け渡し費用を抑えるポイントは「その場保管」
通常、強制執行で差し押さえられた私物や家財道具は「倉庫保管」されて、荷物の搬出や運搬用のトラック、搬出先の倉庫、その作業に伴う人工(作業員)にかかるコストを含んだ金額を請求されます。しかし、動産(債務者の金品)が「その場保管」になれば、「倉庫保管」に伴うコストが削減でき、費用を減額できます。
また、差し押さえから免れた金品は買受人が購入後、転売して換金することで、売却代金を滞納金の支払いなどに充てられます。
「その場保管」にしてもらうコツ
残置物の価値が低く、かつ所有者を含む利害関係者によって持ち出される可能性が低いと考えられる場合、執行官に「その場保管」を認めてもらいやすくなります。また、持ち出しを防ぐ方法として、残置物を建築用のコンパネ(コンクリート型枠用合板)で作った箱の中に入れ、鎖で巻いてカギを取り付ける方法も効果的です。
「その場保管」が認められないケース
「その場保管」は、占有者がいると認められません。なぜなら、建物に占有者がいないことが前提条件だからです。実際、強制執行の当日に占有者がいる場合、残置物は「その場保管」ではなく「倉庫保管」になりますので、ご注意ください。
これは強制執行が実施される日の2~3カ月ほど前(水道メーターの写真を撮っておいたり、玄関ドアにテープを貼ったりするために物件に行く)でも同じです。
占有者がいない場合は、残置物を持ち出せない状態にでき、「その場保管」にすることも可能になりますが 、占有者がいる場合は、残置物を適切に保管できず、「倉庫保管」になってしまいます。このとき、占有者の有無は、キッチンや洗面台などの水回りの水滴や水道のメーター、部屋の扉に貼り付けておいた付箋が一定期間経過後も残されているかどうかで判断します。
このように、「その場保管」は占有者がいると認められないため、明け渡し費用も減額できません。明け渡し費用を少しでも減額したい方は「その場保管」にしてもらえるように、今回ご紹介したコツを実践してみてはいかがでしょうか。
まとめ
競売物件の残置物を処分する方法は、「債務者自身に持ち出してもらう」「自分で処分する」「業者に任せる」「執行官に処分してもらう」の4つがあります。強制執行をするには、まず「執行官への申し立て」が必要です。その後、差し押さえられた債務者の私物や家財道具は競売にかけられ、売却代金が債権者に配当されます。
強制執行による残置物処分には、強制執行申立書の他に、債務名義の正本・送達証明書・資格証明書・委任状などの書類が必要です。加えて、収入印紙・郵便切手・予納金・明け渡し費用・鍵開錠費・依頼料などの費用がかかります。明け渡し費用を少しでも抑えたい方は、今回ご紹介した「その場保管」による方法を試してみましょう。
ミライエでは競売入札の代行を承っております。競売物件の購入を検討されている方は、お気軽にご相談ください。